「最強プロ決定戦!」をキャッチフレーズにしていた今年の日本プロ選手権は、初日に7アンダーの単独首位とロケットスタートを切ったかに見えた尾崎直道が失格するというハプニングで幕を開けた。しかも尾崎と同組だった深堀圭一郎、丸山大輔も失格。1組3人がそろって失格する前代未聞の椿事。さて何があったのか------。
岐阜県・谷汲CCで開催された日本プロ選手権初日の天候は曇天だったが、前日までの降雨の影響で、コース全体がウェットな状態になっていた。
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40代最後の試合で「失格」
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そのため、ボールに泥が付着しやすくなっていたので、プレーの公平を期そうと、その日に限り日本プロゴルフ協会(PGA)の競技委員会はスルー・ザ・グリーン(ハザードとプレー中のホールのティグラウンドとグリーンを除くすべての区域)で「球を拾い上げて拭くことができる。ただしリプレースすること」というローカルルールを採用。
「リフト・アンド・クリーン」と呼ばれる特別ルールで、あまり耳慣れない用語だが、通常はコースコンディションが悪い場合に採用される「プリファードライ」とは趣旨が異なる。
両方ともボールを拾い上げて拭くことができるのは同じだが、「プリファードライ」は、悪いライからの救済とともにコース保護の意味もあり、拾い上げたそのボールは「1クラブレングス」とか「6インチ」とか競技委員会が定めた範囲の中でホールに近づかずに「プレース」しなければならない。
しかし、今回は「ボールに泥が付着する可能性はあるが、コース状態は悪くない」との判断で、ボールを拭くことだけを認めた特別ルールだったのだ。
ところが、この特別ルールを3人そろって通常のトーナメントで行われている「プリファードライ」と混同してしまったために失格騒動が起きた。
日本ゴルフツアー機構(JGTO)が競技運営する試合では、基本的に「プリファードライ」を採用するときには、ホールに近づかずに1クラブレングス以内に「プレース」する処置が一般的で、元の場所に「リプレース」する「リフト・アンド・クリーン」の特別ルールを採用したのは99年の三菱自動車トーナメント(現・三菱ダイヤモンドカップ)の1試合だけだった。
初日のスタート早々に、まず深堀がボールを拾い上げ、いつもコンディションが悪いときに適用される「プリファードライ」だと思い込み、1クラブレングス以内に「プレース」した。その後、尾崎も丸山も同様の処置をしつつ18ホールを終え、スコアを提出した。
トーナメントリーダーとして記者会見に臨んだ尾崎は、開口一番「今日は1クラブ・スルー・ザ・グリーンという、プレーヤーを救うようなルールをやってくれたんで、ああ良かったという気持ちでやれた……」と語り、さらに「春先は悪いライのショットが苦しかったので、そういう意味でも非常に助かったな」とも語っていたから、その時点でも違反に気が付いていなかったのである。
ことが発覚したのは、尾崎が遅い昼食をとりレストランで寛いでいるとき、キャディ同士の会話からだった。失格の理由はスコア誤記である。
「恥ずかしいことをしてファンに申し訳ない」と平謝り。もちろん悪気があっての違反ではないものの、やはりルールをきちんと読んでいなかったのはプレーヤーの責任ということになる。
米ツアーに精通する佐渡充高氏は、
「3人とも米ツアーの経験者。アメリカではリフト・アンド・クリーンといえば必ず1クラブレングス以内にプレースと決まっていて、元の場所に戻すリプレースというのはあり得ないので、何の疑いもなく条件反射的にやってしまったのではないでしょうか。ルールを確認していなかったのは良くないですけど、気の毒なような感じもしますね」
と同情的だ。
「プレース」と「リプレース」は、よく混同されて使われている用語。これを機会にしっかりと頭に入れておきたいものだ。
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