か つてスポルディングの代表ブランドだった「トップフライト」が3年前にキャロウェイゴルフの手に渡ったように、ゴルフ業界でもブランドや企業そのものの譲渡は珍しいことではない。それでも、人気シャフトのライフルを製造する米ロイヤルプレシジョン社が、ライバルのダイナミックゴールドで知られるトゥルーテ ンパー社に買収されるとは……。
ダイナミックゴールドとライフルといえば、アメリカの高性能スチールシャフトの市場を席巻する2大ブランド。日本でも、ダイナミックゴールドはスチールシャフトの代名詞で、プロアマ問わず多くのゴルファーが装着している。
一方、米ロイヤルプレシジョン(RP社)のライフルも軽量スチールの人気はすっかり定着。日本では昨年、宮里藍が採用したことで人気に一層拍車がかかった。
さらに、上級者向けの新製品、プロジェクトXもフィル・ミケルソンを始め、米ツアー選手の間に広まりつつあり、事業は好況のように思われた。
もともと同社のシャフト事業は、1924年に米国内で初めてゴルフ用スチールシャフト製造を事業化させたユニオン・ハードウェア社が前身。つまり、82年もの歴史を誇る老舗中の老舗である。
その後、ブランズウィック社を経て、1997年に現在のRP社に買収された。
ところが、事業が順調だったのは最初の4年間だけ。6年前からは赤字経営に転落していた。老舗ブランドとしての伝統と技術力、そして人気商品を抱えながらであったのだが。
同社の発表によれば、事業不振は製造コストの増加が要因だった。そのため、ライフル人気の裏で同社オーナーのリチャード・F・ジョンストン氏は買収先を探していたという。
その結果、新しい譲渡先が決まったからだろう、先月末にRP社は工場の操業を完全に停止。そして、去る6月9日に新しいオーナーとなったトゥルーテンパー(TT社)が正式に発表を行った。
その席でTT社CEOのスコット・ヘネシー氏は、「RP社はゴルフシャフト界を活性化させてきた企業であり、そのブランドとユニークな設計技術を当社のものにできることは素晴らしい機会だと思っている」と、高い企業価値を認めるコメントしている。
しかし一方では、「RP社はなかなか買収相手が見つからなかったようです。それではライフルブランドがムダになるということで、最終的にTT社が手を挙げたようです」という業界関係者の声も聞かれた。
ともあれ、ライフルを始め、プレシジョンブランドの製造は無事ライバル企業に引き継がれることになった。ユーザーにとっては一安心といったところか。
そこで気になるのが、供給再開の時期だ。
まず、製造については「TT社の工場は、例年7月に3週間ほど操業を停止してラインを点検します。ですので、その間を利用すれば、新しい製造ラインをスムーズに立ち上げることは可能でしょう」(TTジャパン)とのこと。
操業中のラインを止めることなく新ラインのセットアップができるということで、順調に進めば、8月にもTT社製のライフルが世に出回る可能性がある。
次に、日本市場への供給だが、従来どおり日本代理店のプレシジョンジャパンになるのか、それともTTジャパンに移行されるのか。
「TT社との打ち合わせがまだなので明確なことはいえませんが、旧RP社との契約では、従来どおり当社が販売することになっています」(プレシジョンジャパン 榊原俊資社長)
「とりあえずプレシジョンジャパンさんになります。まずはユーザーの皆さんにご迷惑をおかけしないことが一番ですから……。ただし、将来どうなるかは分りません」とTTジャパンの担当者。
当面は従来どおりのチャンネルで供給されるようだ。また、現地とプレシジョンジャパンには、製造が再開するまでの十分な在庫があるとのことで、供給が途絶える事態も考えられないという。
残る問題は、いったいどんな製品が届けられるのか。そして、価格はどうなるのかという点だろう。
今のシャフトは単純そうに見えて、スチールでも製造には複雑な意匠がこめられている。そこで思わぬコストがかさめば、価格に反映される。TT社ライフルシャフトの出来と価格から目が話せない。
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