昨年11月21日のPGA(日本プロゴルフ協会)会長選挙で、再選を狙った長田力前会長と、その執行部を支えた石井秀夫前副会長、船渡川育宏理事の3人が、それに先立つ同月11日に起こした有印私文書偽造の疑いで、6月17日に逮捕された。先週に続き、揺れる「PGA問題」を追った。
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あの時は心底怖かったと、リトルコーノ
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この有印私文書偽造の件に関しては、7月1週目をめどに新たな展開がありそうだが、これに付随して起きた神奈川県選出の理事拉致事件の真相については、警察の捜査中ということもあり、あちこちで少しずつ出る報道が頼りなのが現状だ。
そんな中、拉致被害者である河野高明理事を直撃した。
もちろん、捜査中という事情から「まだほとんど話せない」とその口は重い。だが、マスターズ出場も経験した大物プロでさえ、魂を凍らせるほどの恐ろしい出来事だったということは打ち明けてくれた。
------事件そのものについては?
「拉致は確かにありました。でも、それ以外は申し訳ないけどまだ話せない」
------捜査中だから?
「そうです」
------状況については?
「悪いけど、どこの取材にもお話できない、と言っているんです」
------では、拉致されていた時の心境についてはどうですか?
「そりゃあ、怖かった。イヤ、怖いなんてもんじゃない。目隠しされていても、車の窓に木の枝が当たるのがわかって、どんどん山の中の細い道に入っていく感じだった。
だから、一時は帰してもらえるかどうかすらわからなかった。(車の中で)こうして(うつむいて下に下ろした)両手から汗がたらたらこぼれるほどだった。
トランクにスコップでも入っているのかな、とか、もう子供に会えないのかななどと色々考えてしまった。
そのうち、どうやら帰してもらえる、ということがわかって安心したら、少しうつらうつらして。そうしたらもう家の近くだった。
だけど、あの怖さは経験した者でないとわからないでしょうね」
------ご家族はさぞ、心配したのでは?
「いや、心配させるといけないから言わなかった」
------何事もなかったように家に帰ったのですか?
「そう。だから最初に新聞に出るまで一緒に住んでいる家族も知らなかったはずです。余計な心配をかけるからね。今でもあんまり話しません」
------その後、試合(関東プログランドシニアなど)にも出ているようですが、精神的には?
「一時は少し痩せましたが、今は戻りました」
------試合に出たりして大丈夫ですか? あれきり何もない?
「家には朝から取材の人が来たり、電話が鳴りっぱなしだったりしてゴルフどころじゃない(苦笑)。でも、試合に出ているほうがコースだし、周りにみんなもいるから大丈夫」
------警備のほうは?
「してもらっています」
------あんなことがあった後ですが、悪いことが表沙汰になり、PGAも変わろうとしているようです。それについては?
「やはり、極力、ウミを出す努力をし、出し切らないといけない。これだけは確かなことです。現在の理事は、しっかりやっていきますよ」
これほどの恐怖体験をしながら、今では関東グランドシニアの大会に出場し、元気にプレーをしている気丈な河野。
「全部終わったら(事件に決着がついたら)全部お話できるのですが」と、言葉を選びながらだったが、それでも自らが育ったPGA、ゴルフ界の行く末をしっかり見据えている姿が印象的だった。
今回、被害者となった河野高明理事は、1940年1月生まれの66歳。昭和40年代、杉本英世、安田春雄と並び≪和製ビッグ3≫と呼ばれ、日本ゴルフ界を引っ張った。
160センチ、62キロの小柄な体ながら、豪快なショットを放ち、日本オープン(68年)を始め通算17勝。
マスターズにも3回出場して、69年13位、70年12位、72年19位の成績を残している。大柄な欧米選手にひけをとらないプレーぶりで驚かれ、≪リトルコーノ≫のニックネームを得た。
拉致実行犯が河野理事のキャリアを知っていたかどうかは不明だが、日本プロゴルフ界で実績あるプロの身が拉致にあったとはいえ、肉体的に実被害に合わなかったことだけでも不幸中の幸いだった。
まだまだ解明されない部分が多いこの問題から、当分は目が離せない。
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