日本オープン最終予選会における中西雅樹プロのスコア改ざんの不祥事は、先週一般紙でも報じられる騒ぎとなった。彼に対する日本ゴルフツアー機構(JGTO)の処分は、本号発売前日25日に決まる運びになっているが、こうした事が起こる背景に、中西プロが≪ジュニアゴルフ出身の若手有望株≫であること、そのジュニアゴルフが競技志向で指導されるあまり、スコア偏重になっている風潮を指摘する声がある。そうした声を紹介しよう。
その前に、まずこの事件の概況を説明すると――。8月28日、29日に茨城・セントラルGC東コースで行われた日本オープン選手権最終予選の初日。
中西雅樹プロは、スコアカード提出所でアテスト後に、マーカーのサインが入ったスコアカードを3ホールにわたり消しゴムで消したのち、少ないスコアに改ざんし、提出した。
しかし、場内に掲示された成績を見て、マーカーともう一人の同伴競技者が競技委員に不正の疑いを連絡。競技委員が直接、中西プロに確認すると、彼はその事実を認めたため、競技失格となった。
いまさら言うのもはばかられるが、スコア改ざんはプロ、アマを問わず、ゴルファーとして絶対にやってはならないこと。
「ルールブックの冒頭、『ゴルフ規則の本質と精神について』という項には、『ゴルファーはみな誠実であり、故意に不正をおかす者はいないということが基本的な考え方になっている』という一文があります。この精神があるからゴルフはレフェリーの立ち会わない唯一のスポーツであり続けられるのであって、彼の行動が事実なら、ゴルフの存在そのものを危うくさせるもの。ゴルファー失格と言うしかないでしょう」(トーナメントディレクター・戸張捷氏)と厳しく断罪されて当然である。
しかし、これほどの背信行為であるにもかかわらず、同予選会の主催者である日本ゴルフ協会の対応と追加処分(同競技会では競技失格の処分を受けている)の決定は、遅すぎる感は否めない。遅すぎたがために、反響がここまで大きくなったことも否定できないだろう。
JGA事務局によれば「処分をするかどうかも含めて検討中」とのこと。そして、現在は担当委員の意見を集約しているところで、それによって委員会開催が決められるという。処分決定までは、まだ時間がかかりそうだ。
一方、ツアープレーヤーとしての籍を置くJGTOでは「25日開催の理事会に、処分が諮られることは決まっています」(広報担当)という。
出場停止や除名を含む厳しい処分が検討されているといった報道もあったが、いずれにしても結論は25日以降になる。
処分を前に、中西プロ本人に代わって父親・浩幸さんが「今は何もいえません。JGTOの処分が決まるまでコメントは待ってください」と苦しい胸のうちを語ってくれた。将来が嘱望される若手だっただけに、なんとも残念でならない。
ところで、こうした前代未聞の不祥事の一因には、ジュニアゴルフがあまりに競技、スコア志向を強めつつあること。つまり、将来プロになることを目的にゴルフを教える親が増えた弊害との声もある。
その象徴的な出来事として、NPO法人日本ジュニアゴルファー育成協議会(JGC)の角田武夫理事は、
「今年もあるジュニア競技会で、成績掲示板の前の、大勢の人の前でスコアが悪かった息子を殴りつける父親がいました」といった事例を挙げたうえで、「最近は親の顔をうかがいながらプレーする子がいかに多いか。彼らはゴルフがちっとも楽しそうじゃない。かわいそうです」とジュニアゴルフの現状を嘆く。
また、先の戸張氏も「今のジュニアのなかには、スコアが悪いと親に厳しくしかられるので、それが嫌でスコアを誤魔化すことがあるようです」と今回の不祥事にもつながる風潮を語ってくれた。
そのため、「中西プロのことは良く知らないので想像するしかありませんが、選手本人に猛省してもらうのは当然として、そうした改ざんをするまでに追い込んだ親、指導者、周りの指導環境にも反省すべき点があったのだろうと想像します」(角田氏)という。
JGAをはじめ多くの関係者がジュニアに対するゴルフ普及を訴え、実際に活動を行っているのは、将来のプロゴルファーを育成するためではない。
現在、年間150日は子どもたちにゴルフを教える現場に身を置くという角田氏は、
「もともと子どもたちは、何の邪念もなく、ゴルフを純粋に楽しみながら同時に、ゴルフを通して自然に、安全とか周囲への心配り、自己責任といった社会人として身につけなければならない習慣を身につけます。実はそうした社会のなかで生きていく≪生活力(ライフスキル)≫を獲得してもらうことが本当のジュニア育成活動の目的なんです」と語る。
今回の事件は、子どもたちにゴルフを教える意義を、わが身を省みながらもう一度考えるいい機会かもしれない。
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