道具に頼ってでもあと1ヤードがほしい。そんなゴルファー心理をついて、昨年あたりから飛距離をアップさせるシューズやソックスが登場してきた。そして今年、足元の次に注目されているのが手元だ。グリップメーカーも新規参入して話題を集めている。
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マジックテープがX型のイオミック(左) 汗、雨に強いパラディーゾ(右)
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これまで、グローブの売り文句といえば、グリップ力、フィット感や柔らかさなどフィーリングに関わる部分が主体で、機能の違いがストレートに伝わりにくかった。
しかし、ミズノのバイオロックプラスは「飛距離を3ヤード伸ばす」というキャッチフレーズで登場し、この春からの半年間ですでに8万枚以上を売りあげた。
グリップを握る力をゆるめれば、上半身を柔らかく使えヘッドを走らせることができるというのがグローブで飛ばす理屈だが、ミズノが注目したのは、グローブとグリップではなく、グローブと手のひらの摩擦だ。
ぴったり作られたグローブでもどこかに遊びがあるし、素材の伸びも完全には防ぐことができないため、スウィング中にグローブの中で手が動いてしまう。
これを、グローブの内側をアクリル系樹脂加工することで手のズレを防いでいるのがバイオロックプラスで、男性用の好調な販売を受けて、この秋には女性用も登場した。
グリップとの相性を考えて作られたのが、イオミックのXグローブ。同社製のカラーグリップで人気の6色をアクセントカラーに用いたこのグローブは、女子ツアーでも、グリップの人気を背景にした隠れ人気アイテムとしてプライベートや練習で使用する選手が急増した。しかし、人気の秘密はデザインだけではないようだ。
同社のグリップには材質にプラスチック系のエラストマーが採用されているが、「素材そのものもグリップに近づけることで、グリップ力を向上させています。素材以外にも手のひら部分のたわみをなくすX状のベルクロや亀甲柄のパターンなど独自の工夫を凝らしています」(イオミック営業部長/古東義崇氏)
9月に発売されたXグローブは、口コミだけで初回ロット3万枚があっという間に売り切れたという。10月中旬に供給される5万枚も「特に宣伝もしていませんが、年内になくなるのでは」(古東氏)と、同社でも驚きを隠せない様子だ。
手に汗をかいても、雨でも飛ばせるグローブも登場する。ブリヂストンから11月に発売されるパラディーゾGLA710、711は、グローブの内側にインナーセプトンメッシュという特殊加工を施すことで、
「従来品と比べてドライで9パーセント、ウェットになるとそこからさらに約7パーセント摩擦係数がアップする」(ブリヂストンスポーツ広報室長/嶋崎平人氏)
セプトンは水泳用ゴーグルのバンド等に使用されるなど水濡れに強い素材として知られている。プレッシャーのかかる場面で、緊張のあまり手に汗握ってしまうゴルファーには朗報かもしれない。
前記の3商品は人工皮革製だが、天然皮革にこだわって作られたのが9月に発売されたキャスコのノンスリップレザーだ。
「合成皮革は延々と伸びてしまうのに対して、天然皮革は一定のところまでしか伸びません。それを伸ばし切った状態で裁断するので、使用しているうちにゆるむこともありません」(キャスコグローブ企画/広瀬正美氏)
なめし材に高純度の有機シリカを使うことで、手とグローブのスリップを防いでいるのがノンスリップレザーの特徴。
シリカは自動車タイヤのウェット性能やブレーキの摩擦係数向上にも利用される素材で、これを皮革に染み込ませることでグリップ力を狙っている。
「摩擦係数は従来品の28パーセントもアップしており、その分ヘッドを走らせることができます」(広瀬氏)という自信作だ。
ゴルフグローブ市場は、ゴルファーのラウンド回数の減少に伴い、ピークの120万枚から70万枚へと半分近くに減り、さらに平均単価も下がるなど縮小に歯止めがかからなかったが、これまで使われなかった素材を使ったりして、「飛び」というわかりやすい付加価値で復活への足がかりになりそうだ。
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