ハイボア、サスクワッチ、ヘクサスといった異形ドライバーの次に注目を集めそうなのは≪四角い≫ヘッドだ。奇妙な形の2つのドライバーが先々週、日米のツアーで同時にデビューした。米男子ツアー、フナイクラシックでチェ・キョンジュが手にしていたのはナイキのサスクワッチ・スモー・スクエア。一方、日本のマスターズGCレディースにはモーガン・プレッセルがキャロウェイのFT-iを持ち込んだ。外観は非常に似通っている。どちらも真四角に近い弁当箱のようなヘッドなのだ。
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四角に死角なし? 左スモー・スクェア、右FT-i
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この2機種は製法がカーボンとチタンのコンポジットという点も同じ。さらにスモー(SUMO)はスーパー・モーメント・オブ・イナーシャ(超慣性モーメント)の頭文字で、FT-iの開発コード名はイナーシャ・モンスター(慣性の化け物)、同様のコンセプトで作られたドライバーが同時期に登場した背景には、実はルール問題があった。
反発係数、長さ、ヘッド体積が規制され、ドライバーの進化の余地は「慣性モーメントを大きくするしかない」(キャロウェイゴルフPRマネージャー・松尾俊介氏)というところまで来ている。そして、
「慣性モーメントは、重心からなるべく離れた場所にウェートを配分するほど大きくなる。決まった体積で慣性モーメントを大きくしようとすれば四角い形にならざるをえない」(クラブ設計家・竹林隆光氏)というわけだ。
四角いヘッドは約10年前にマルマンが実用化している。やはり当時の素材や製造技術の限界を超える慣性モーメントを実現するためのアイデアで、ドライバーとフェアウェイウッドが商品化された。
このビッグウィンSQは方向性のよさで評判になったが、特異な形状に好き嫌いは分かれた。パーシモンからメタル、チタンと素材が変遷しても、ゴルファーの感性は見慣れない形状を受け容れなかった。
ナイキでは、来春発売予定の2種類のドライバー、フルチタンのサスクワッチ・スモーとカーボンコンポジットのスモー・スクエアの成功に自信を持っている。その根拠は昨年登場したサスクワッチの成功にある。
「タイガーでも300ヤードを超えるショットではフェアウェイをキープできるかどうかが鍵。慣性モーメントを高めればプロにも大きなメリットが得られることが理解された。とくにスクエアは慣性モーメントを徹底追求しました」(ナイキゴルフマーケティング担当・鈴木健氏)
一方、キャロウェイのFT-iは、契約選手によるテストを始めたばかりで発売は未定だが、試打した飯島茜が
「絶対左に行かないし、曲がらない。スクェアなのでフェースも合わせやすい。試合でも使ってみたい」と評価するなど完成度は高いようだ。
前記2社以外にも動きはある。四角いヘッド形状の製造に関して多くのノウハウを持つ中国のベンダー筋からは、ほかに複数のメーカーが興味を示しているという情報も伝わっている。
国内メーカーでは、セイコーエスヤードなどが製品化に向けて研究開発を進める。
「形状や素材などいろいろな可能性を探していく中で、四角いヘッドは一つの可能性。どう進化したかを訴求する上でも分かりやすい形だし、期待している性能が得られるかを検証している段階」(同社ゴルフ用品部・尾林浩行氏)
また、業界内大手メーカーも、「製品化されるかどうかは白紙だが開発の可能性としてはありうる」(ブリヂストンスポーツ広報室長・嶋崎平人氏)、
「既成概念にとらわれない新しい技術開発には積極的に取り組むのが当社の姿勢」(本間ゴルフ宣伝担当・桑木野洋二氏)など今後の製品化の可能性については否定しておらず、来春には四角いドライバーが話題の中心となっているかもしれない。
そこで気になるのは、慣性モーメントがどれほどの効果をもたらしてくれるかということだ。スモー・スクェアの5300gcm2は、サスクワッチの4600gcm2に対し約15パーセントも大きくなっている。また、FT-iは新ルールぎりぎりの6000gcm2近いともいわれている。
竹林隆光氏は、「少しでも機能をよくしようという努力は評価されるべき」と前置きした上でこう続ける。
「数字のマジックもある。同じ1000gcm2増えるにしても、パーシモンの1700gcm2から初期のチタンの2700gcm2になったときの差は大きかったが、4000gcm2から5000gcm2への変化ではそれほどの差が出ない」という。
性能をとるか、感性を選ぶか、「丸」と「四角」で悩むゴルファーが増えそうだ。
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