週刊ゴルフダイジェスト「BACK9」の内容を、バックナンバーとしてほぼそのまま転載しています。
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「本間様には及びもないが、せめてなりたや殿様に」とまで謳われたのは江戸時代の豪商本間光丘だが、その名家の末裔たる本間ゴルフ創業家のお家騒動は前代未聞のスキャンダルに発展した。民事再生手続きを今年7月に終了し、新ブランドのベレスも好調な本間ゴルフだが、その矢先に水を差すような事件が発覚したのだ。

容疑を否認してはいるが……。本間秀一前社長

　今年2月28日深夜、本間ゴルフ酒田工場2棟が焼ける火災が起きたが、県警では当初から計画的な放火事件とみて捜査を行ってきた。

　その理由には、現場にポリタンクなど遺留品が残されていたこと、2棟が離れておりともに火の気がない場所だったこと、そして製品開発のB棟と看板商品アーマックシャフトを組み立てるO棟という同社中枢だったことなどがあげられる。

　この事件の容疑者として、山形県警捜査一課と酒田署は11月17日までに、韓国国籍の劉文度（65歳）ら4名を非現住建造物放火などの容疑で逮捕したが、その中に本間秀一前社長（43歳）が含まれていたのだ。

　本間ゴルフは酒田市では就職先としてもっとも人気のあるブランド企業なのだが、本間容疑者の評判は芳しくなかったようだ。

「ほとんど酒田には来たことがないし、一般の人は秀一さんのことをよく知らないのでは。ただ、先代社長の頃から派手な振る舞いは目立っていた」（地元ゴルフ業界関係者）

　在任時には、改造に1000万円もかけた車を乗り回す御曹司としてセレブを紹介するテレビ番組にも出演していた本間容疑者がなぜこのような犯罪に手を染めたのか。

　本間敬啓氏と裕朗氏の兄弟が1963年に創業した本間ゴルフは、高級ブランドとしての地位を確立したが、メタルヘッドのブームに乗り遅れ経営に陰がさしはじめた。さらに、2001年韓国への不正輸出が発覚。初代社長の敬啓氏が消費税法違反容疑で東京国税局に告発されたため、裕朗氏が2代目社長に就任した。

　そして2004年裕朗氏の跡を継いだのが敬啓氏の息子である本間容疑者だった。しかし、業績は好転せず、ついに会社再建を民事再生に委ねることになったが、スポンサー企業が支援の条件としたのが社長退陣だった。

　本間容疑者は放火事件の1週間後3月7日に退任。また、同月100パーセント減資と第3社割当を行い、本間一族は経営から完全に排除された。捜査本部で動機を追及しているが、一連の経営トラブルが背景となっているのは間違いない。

　4名が逮捕された直後には、「本間容疑者が劉容疑者に横流しした商品の価値が下がるのを防ぐために、新製品の開発を妨害しようとしたのでは」と報じられたが、これについて本間ゴルフでは、「横流しの事実は確認していない」（同社総務）としている。

　また、容疑者の家宅捜索では、本間、劉両容疑者が関わる会社設立の資料が押収された。捜査本部では、本間容疑者が技術者の引き抜きに失敗した事実もつかんでおり、研究開発をストップさせることで技術者の翻意を促すねらいがあったとの報道もある。

　新会社の名称は本間ゴルフクラシックで、「本間」と名の付くブランドでクラブを作るなら、現本間ゴルフは真っ向からの商売敵、直接の動機としては十分考えられる。

　また、本間容疑者と劉容疑者の≪黒い交際≫に関してはこんな話もある。本間容疑者の社長在任時、劉容疑者の経営していたゴルフ用品販売会社と韓国における代理店契約が結まれたが、既存代理店から抗議を受け、二重契約の違約金として5億円が劉容疑者に支払われた。

　この契約は本間容疑者が周囲の反対を押し切って独断で進めており、当初から違約金目当てだった疑いがある。

　一連の事件は劉容疑者からもちかけたとも伝えられているが、社長の座を追われる寸前の本間容疑者とってみれば、捨てる神あれば拾う神ありといった心境だったのか。しかし、実際にはとんだ疫病神だったわけだ。

　本間容疑者は、いまのところ犯行への関わりを否認している。「研究棟は4月から移転する予定だったため1カ月程度で業務を再開できた」（地元関係者）ことが事実ならば当時の社長が知らないはずもなく、放火事件は劉容疑者らの暴走と考えることもできなくはない。

　だが、いずれにせよ両容疑者に深い付き合いがあったのは確かであり、本間容疑者は自分の会社に後足で砂をかけたことになる。

「ただ驚いている。まだイメージをどう回復するかまで考えられない」（同社総務）。本間容疑者の残した負の遺産は大きい。