これからの季節で気をつけなければならないのが、屋内外の大きな温度差から来る身体の変調だ。気温の低下は、脳卒中や心筋梗塞といった≪サドンデス(突然死)≫につながりかねない症状を引き起こす。ところが最近、そうした不幸な事態を防げることであれば、積極的に取り入れようという動きが、全国のゴルフ場で広がっている。
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シニアが多い習志野CCにもAEDが設置された
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最近、ゴルフ場で「AED」と表示された機器をよく目にする。「AED(自動体外式除細動器)」は、いわゆる心臓発作(多くは心室細動)を起こした心臓に対し、電気ショックが有効な症状であることを確認したうえで、自動的に作動するポータブルな医療装置。
かつては医師や救急救命士しか扱えなかったが、1分1秒を争う心臓発作には非常に有効であることから、04年7月に一般にも解禁された。そのため、多くの公共施設で、職員等が講習を受けた上で設置するようになった。
アコーディア・ゴルフでは、同ブランドで営業する全90コースすべてで昨年12月までにこのAEDを備えた。「高齢のゴルファーがますます多くなる時代、各ゴルフ場で、万が一に備えられることがあれば備えていきたい」(広報担当)との思いから導入に踏み切ったという。
神奈川県の磯子CCでは、AEDの規制が緩和された直後の04年秋から設置している。これが新聞等で大きく取り上げられ、以降、県内にこれにならうゴルフ場が増えた。「確認はしていませんが、周辺のゴルフ場は多くが設置していると思います」(大相模CC・関口昌史支配人)
同CCでは、年2回、救急救命の講習を受け、そこでAEDの操作を確認して誰でも扱える体勢を整えている。また、現在はキャディマスター室にあるのだが、1秒でも早く持ち出せるようにと、いずれは屋外に設置し、さらにコース売店にも装備したいという。
一方、国内18コースの太平洋クラブでは、04年9月までにグループの全コースで「緊急看護補助員」の資格を持つスタッフが常時配置されるようになった。「毎年、日本赤十字や専門の講習機関で講習を受けています」(同社・広報部)。同グループのゴルフ場も、一部を除きAEDを用意している。
こうした動きが広がっているのは、前述のとおり、年配のゴルファーが増え、病人が発生する可能性が増しているからだ。
さらに、ゴルフ場の多くは市街地から離れ、救急車の到着から病院への搬送まで、ある程度の時間を要するからでもある。それゆえ、最後はゴルファー自身の用心と備えが生死を分ける。
日本ゴルフ学会参与で太平洋クラブ軽井沢コースの競技委員も務める櫻井輝隆氏(77歳、日専連副理事長)は自らの備えで脳梗塞の一歩手前から無事生還した経験がある。
その備えというのは、自身の名前、生年月日、といったプロフィールのほかに「緊急指定病院、担当医、既往症歴、平常時の身体データ」といった、緊急時に備えたデータを記した手製のカードを懐に忍ばせていたことだ。
2年ほど前、急にロレツがまわらなくなった櫻井さんは、それを懐から出して救急車を呼んでもらった結果、症状が悪化する前に適切な措置がとられ助かったと語る。
この≪カード≫の有効性をIT技術で進化させた、アメリカ生まれのシステムがある。日本では昨年10月から運営されている「ERM」というシステムだ。
契約者には、あらかじめデータセンターに管理された健康データや医療情報が入ったカードが渡され、緊急時にそのカードを保持していれば、その情報が搬送先病院ですぐに活かされるという仕組みだ。
まだゴルフ場では採用されているところはないが、何事も自己責任で進めるゴルフのこと、ゴルフ場で命を落とさないためにも、一考に価するといえそうだ。
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