この春にウイルソンの『ダイナパワー』ブランドから発売されるウェッジには研磨職人である千葉文男氏の名前が堂々と謳われている。大手メーカーが自社の看板ブランドとの「ダブルネーム」扱いするのは、日本の職人の技がブランド力として認められたからにほかならない。
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ブレークするか? マルマンのKSウェッジ
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一つの商品に二つのブランドネームを併記し、ブランド力の相乗効果をねらっているのが「ダブルネーム」商品だ。ファッション業界ではデザイナーブランドとメーカーブランドのダブルネームが一般的となっている。
また、有名どころでいえばティファニーとロレックスのコラボレーション、庶民的なところでいえば最近のヒット商品であるお茶漬け味や酢昆布味のえびせんなど、巷にはさまざまなジャンルのダブルネーム商品が溢れている。
ゴルフクラブでは、スコッティ・キャメロンやボブ・ボーケイといった有名デザイナーのブランドは別にして、大手メーカーブランドの商品はこれまで「誰が」作ったかということをほとんど表に出してこなかった。
実際には、アイアンヘッドの原型を業界では名の知れた職人が削っていたり、このほかヘッドやパターの製造を企画から行うOEM専門メーカーがあったりするのだが、あくまでも黒子の存在として扱われてきたのである。
その風向きがここに来て変わったのは、ユーザーの商品知識が深まるようになり、品質の裏付けとしてOEMメーカーや職人の名前を出す方が商品の付加価値が高まるという判断が働いているようだ。たとえばシャフトがそうである。
クラブでは、職人仕事のイメージと結びつきやすいウェッジがダブルネームの皮切りとなった。『ダイナパワー』といえば70年代に生まれ、一世を風靡したウイルソンの名器だが、往年のブランドネームが今年『ダイナパワーウェッジ』として再登場する。
このウェッジを研磨するのは片山晋呉や田中秀道など多くのトッププロのクラブを手がけてきた千葉文男氏だ。商品化のきっかけは他のプロが同じモデルを欲しがるほどウェッジにこだわりを持つ神山隆志プロのためのプロトタイプを依頼したことに始まる。
ところがダンロップフェニックスでタイガー・ウッズとの米欧ツアー賞金王対決を制したパトレイグ・ハリントンが一目惚れするなど、
「あまりの出来映えのよさに市販したらどうかという話が持ち上がった」(雨阿スポーツジャパン/吉本浩氏)
販売に当たって、「ダイナパワー」ブランドを使うことに本社サイドからも異論は出ず、むしろ千葉氏が手がけたことを売り物にしているといってもいい。
自社の技術者の名前を冠した『KSウェッジ』を発売したのはマルマンだ。設計監修の杉山健三氏は、パーシモン時代からヘッドを削ってきた同社屈指の職人で漫画「風の大地」の登場人物としても知られている同氏が考案したウェッジは
「開いて構えてもボールを包み込むようなネック形状とマイクロスピン仕上げによるスピン性能」(マルマン/都文男氏)が特徴だ。
また、横峯さくらが一時期使用していた「ゾーンウェッジ」は、名古屋のショップ「ごるふ工房」と研磨職人の坂本成範氏のコラボレーションで地クラブとして生まれたウェッジだが、大手商社の大沢商会が販売元となって昨年末から全国展開を始めた。
単品ウェッジはまだニッチな市場だが、「時間をかけて育てていきたい分野だが、反面、何が当たるか分からない時代」(マルマン/都氏)だけに日本から第二、第三のボーケイやクリーブランドが生まれてくる可能性はある。
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