3月の決算期末に向け、資産売却を進める西武グループが、ハワイのマウイプリンスホテルの売却先が決定したことを公表した。売却先は世界最大の証券会社、モルガン・スタンレー系のファンドだが、驚くべきは総額5億7500万ドル(1ドル=120円換算で690億円)というその価格だ。近年まれに見る高額での取引の背景を探った。
今回売却対象になっているのは、ホテルの他、隣接のマケナGC(36H)、それに販売用の土地約166万坪など。帳簿価格は1億4700万ドルなので、今回の売却で西武グループには500億円以上の売却益が立つ。
ゴルフ場のみの価格は不明だが、入札に参加したPGGIHグループは「あまりの高さにあっけにとられている」と、驚きを隠せない。
西武グループのコースは大半がパブリックで、年会費という安定収益が見込める会員制コースとは収益の考え方が違う。PGGIHはパブリックも10コースほど買っており、決して興味がないわけではないが、あまりにも価格が高すぎて収支が合わないというわけだ。
モルガン・スタンレーは、日本におけるゴルフ場買収ではほとんど馴染みがないが、不動産事業にはかなり積極的。西武鉄道は2004年秋、有価証券報告書虚偽記載を理由に突然上場廃止になり、2005年1月に外部有識者による経営改革委員会から、「国内に160カ所あるリゾート施設のうち、約40カ所について、撤退や売却を検討すべき」との提言を受けた。
これで一挙にコースが売りにでるとの期待が高まり、多くの買収提案が西武に持ち込まれたが、ゴールドマン・サックス(以下、GS)とならび、モルガン・スタンレーも提案を出したと言われる。
GSは今回も含め、過去に西武系のコースの入札に参加しているかどうかは明らかにしていないが「興味がないわけではないが、今のところ縁がない」という微妙なコメント。
現在までに売却先が決定しているコースはマウイを含めて9カ所だが、PGGIHやGS、オリックス、ユニマットといったゴルフ場買収の常連組に決まったものは1カ所もない。
おおむらさき、吉井南陽台、箱根くらかけの3コースは東証一部上場の不動産投資ファンド運営のパシフィック・マネジメントグループだし、伊勢高原は大証ヘラクレス上場の携帯電話販売代理業者で、最近新生銀行と組んで不動産ファンド事業に参入したトーシン。
ニセコ東山、ニセコGC、鰺ヶ沢高原、水上高原の4コースはシティバンクを傘下に抱えるシティグループの投資部門とまったくバラバラ。
資産の売却にあたっては、「基本的に物件ごとに入札」(プリンスホテル広報)で、落札のポイントも「基本的に金額」(同)、「金額の他、従業員の雇用など総合判断」(西武ホールディングス広報)だ。
透明性と公平性の観点で見て最もわかりやすいし、会員制コースがほとんどないということからも最善の方法と言える。それだけに西武のコースは金額競争になりやすい。
ゴルフ場買収の常連組の一角・ユニマットリバティは、今回のマウイについては「海外は基本的にやらないので入札には参加していない」が、国内コースについては過去、「検討はしてみたものの、結局入札には参加していない。
複数のコース、もしくはホテルやスキー場もセットで、という条件だとノウハウ面の問題から検討しにくくなったり、冬場にクローズしてしまうコースだと、冬場の従業員の処遇の問題などもあった」という。
ここには、収益性を無視してまで落札しようという気が毛頭ない常連組に、新興勢力が競り勝っている姿が浮かび上がる。
シティグループは前出のゴルフ場の他、北海道の糠平温泉、秋田県の阿仁、新潟県の湯沢中里、群馬県の表万座と4カ所のスキー場が全てワンセットになった入札に応札、総額95億円で落札している。
今回マウイ・プリンスを買収したモルガン・スタンレーだけでなく、シティがこれだけの≪買い物≫をどう料理し、≪出口≫に辿り着くのかも、注目すべきだろう。
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