40代で2年連続賞金王となり、今年のメルセデス選手権に続きアーノルドパーマー招待でも優勝、40歳を過ぎてから19勝とツアー新記録を更新中のビジェイ・シン。米ツアーの「中年の星」の快進撃の陰には、あのベッカムも使った秘密兵器があった。
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怪人ビジェイの強さの秘密が分かった
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世界一練習するゴルファーといわれているビジェイ・シン。たいていの人は、40歳を越えたとたんにガクンと体力が落ち、疲労が抜けにくくなるのを実感するだろう。
いくら「怪人」とはいえシンも人の子、44歳になってなお、あれだけの練習量をこなす驚異的な体力を支えているのは、40歳になる手前から使い始めた高気圧酸素カプセルだ。
この装置が注目を浴びたのは、2002年に行われたサッカーのワールドカップ日韓大会。本大会直前で左足甲を骨折し、出場することすら危ぶまれたデビッド・ベッカムは、全治10週間と診断された怪我を7週間で完治させる驚異の回復力で、イングランド代表主将としてチームを引っ張った。
このとき早期回復のためにベッカムが行ったのが高気圧酸素カプセルを利用した治療法で、このカプセルはいまでも当時のマスコミがつけた「ベッカムマシン」という愛称でよばれている。
それ以来、高気圧酸素カプセルはJリーガーやプロ野球選手はじめアスリートの間で浸透し、昨年夏の甲子園大会で優勝した早稲田実業のハンカチ王子こと斎藤佑樹投手の連投を支えたことは記憶に新しい。
高気圧酸素カプセルの内部は、気圧が1.2~1.3気圧に保たれていて、その中に入るだけで、血液や体液中に溶け込む酸素の量が増え、体の隅々まで酸素が行き渡る。
その結果、新陳代謝が高まり、とくにスポーツ選手にとっては、疲労物質である乳酸の分解が促進されるので疲労回復効果が大きいといわれている。
大人がすっぽり入る大きさの装置だが、折りたたみできる携帯タイプも開発され、カプセル本体と空気を送り込むポンプを合わせても重さは30キロ程度。
シンはこのタイプの携帯カプセルをトーナメントに持ち歩き、ほぼ毎日のように利用して、ハードな練習の疲れを翌日に残さないようにしているという。
また、高気圧酸素のもうひとつの効果として、身体の可動域が大きくなることがあげられる。
「個人差はありますが、高気圧酸素カプセルに40分入るだけで、前屈して床に指先が届かなかった人でも、ペタッと手がつくようになったりします」(オアシスO2発売元シグマ・パル・髙栁健介社長)
翌日に疲れを残すほどハードな練習をこなすアスリートでなくても、歳とともに硬くなる身体の柔軟性を保てるとすれば、ゴルファーにとって利用する価値はありそうだ。
趣味のスキューバダイビングを通じて高気圧酸素の効果を体験的に知っていたという湯原信光は3年前に携帯タイプを購入した。
「ダイビングで水圧が加わると体調が良くなることはわかっていましたが、腰を痛めていると重いボンベを背負うのは危険なので、同じような効果を手軽に得られる方法がないかと探していました」
湯原以外の日本人トッププロの間でも、高気圧酸素カプセルを利用する選手は徐々に増えているようだが、ただそれだけでゴルフが上達するわけではない。
「急にスウィングが良くなるということはありません。高気圧酸素カプセルはコンディションを整えるためのもので、あくまでも自分がやろうとしていることをやりやすくするだけ」(湯原プロ)
治療院やフィットネスクラブなどの装置を利用すれば1回あたり数千円、購入すれば380万円。それだけの投資を生かせるかどうかは本人の努力次第いえそうだ。
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