ゴルフ会員権の損益通算。今年こそ廃止になると言われ続けながら、廃止を免れてきたが、折しも団塊世代が定年を迎える中、「損益通算」が俄然脚光を浴びてきた。
毎年1月に公表される税制改正大綱にほぼ沿う内容で通常国会にかけられ、3月に可決、4月1日公布で施行・適用は1月1日に溯る、というのが損益通算が延命する例年のパターン。
個人の所得税法では、譲渡所得や不動産所得など、4種類の所得で出た損失は、給与所得など4種類以外の所得と相殺出来る。
従って、サラリーマンで給与所得しか所得がない人の場合は、買値より大幅に値下がりしたゴルフ会員権を『譲渡』、つまり売却して出た譲渡損失と、給与所得との差額に対する税金だけ払えばいい。それが損益通算の基本的な考え方だ。
個人は毎年1月~12月までの分を、翌年3月に確定申告する。買値よりも大幅に値下がりした会員権を売らないまま年を越し、3月に廃止が決まってからでは損益通算は使えずじまいになってしまう、ということはよく知られている。
また、損益通算は所得の範囲でしか使えない。譲渡損失が1000万円出ても、所得が800万円しかなければ、800万円までしか相殺は出来ないので、税金を払わなくてよくなる。
つまり、源泉徴収されていた税金が返ってくるだけで、引ききれなかった200万円相当の税金を還付してくれるわけではない。
従って、定年退職後、所得が減ってから譲渡損失を出しても、損益通算の効果は出ない。しかも定年の年は、12月31日生まれでもない限り、その年にもらえる給料は1年分よりも少なくなる。
退職金はがっぽり入るが、退職金は老後の生活を支える原資だということをさすがの税務署も理解しているので、控除枠が大きく、多くの場合はほとんど税金を払わなくて済む。逆に言えば、≪退職所得≫はあまり巨額にならない。
つまるところ、巨額の含み損がある会員権を持っている人は、損益通算を使いたければ、出来れば定年の前年の12月末まで、少なくとも定年の年の12月末までに売却した方がいい、ということになる。
もっとも、昔買った会員権で、プレーもしないから年会費もずっと払っていない、という会員権を今も持っている人は、さすがにかなり減っているようだ。「一昨年がピークで、それ以降はかなり減っている。一巡したという感触」(大塚ゴルフサービス・大塚重昭社長)
「譲渡損失の幅も、昔は1000万円とか、かなりの巨額になるケースが多かったが、最近では100万円とか200万円とか、だいぶ縮小してきている」(ゴルフダイジェスト社会員権サービス部・田嶋一弘課長)
巨額の含み損を抱えていると言っても、ホームコースだから手放さない、というのなら損益通算の話は無関係だ。だが、昨今の会員権価格の上昇を見て、夢よもう一度、とばかりに値上がりに期待して待ちの姿勢をとる、というのは考え物。
値上がりによって増える手取りと、損益通算でマケてもらえる税金とどちらが大きいか、よく考えてみる必要がある。
ちなみに、民事再生や会社更生を経たコースの会員権は基本的に損益通算の対象にならない。税務署によって会員権税務に関する知識にかなりバラつきがあるので、通ってしまう場合と否認される場合があるが、基本的にダメだと考えておいた方がいい。
何年も経ってから、「あのとき通したのは間違いでしたから、マケた税金を納めろ」と言われたら、裁判で争うつもりがないのなら従うしかない。
いまやプレーしない、含み損を抱えた会員権を持ち続けている人は少数派だろうが、そもそも制度自体いつなくなるかわからない。損得は冷静に考えよう。
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