6月初め、熊本県の植木CC、9番ホールで、3番ウッドでのティショットが大きくスライス、打球は20~30メートル前方に立っていた同伴プレーヤーの同僚男性(58歳)の頭を直撃、死亡させる事故があった。この場合、状況のいかんを問わず法的にはプレーヤーが加害者となり賠償責任を問われることになる。実際、打球事故の加害者はどれくらいの賠償責任を負うのだろう。
打球事故で死亡、もしくは重傷を負わせ、その賠償責任が裁判で争われた例はそれほど多くない。ほとんどが示談もしくは和解で解決し、賠償の内容は公表されないケースが多い。
それでも、最近の事例をあげると、まずは2年前に大阪地裁で判決のあった打球事故。
加害者が第2打を9番ウッドで打ったところ、打球は大きくスライス。ボールは右前方43メートルほど離れて立っていた被害者(会社経営)の左側頭部を直撃。被害者は脳挫傷等で36日間の加療を受けたが、後遺症が残った。
そのため加害者に対し、不法行為(危険なショットを放った過失)があったとして治療費や後遺障害による遺失利益、慰謝料等で総額約5246万円を請求する訴訟を起こした。
これに対し大阪地裁は、加害者の第2打地点がつま先上がりの斜面で、深いラフからだったことから、ミスショットになる可能性があり、加害者の前に立っていれば打球が当たることも十分予想できたとして、被害者にも過失を認定。
加害者には、原告請求の6割を過失相殺した2300万円余の支払いを命じた。
次に、5年前、名古屋地裁で判決の出た打球事故。加害者はグリーン内にあるバンカーから、10メートルあまり先のピンに向かったアプローチを放ったところ、打球はシャンク。ボールは、他のプレーヤーのボールを拭こうとしていたキャディの左眼を直撃した。
この事故の判決でも、加害者には「他のプレーヤーなどへの注意義務違反の過失がある」とキャディ側の主張を認めながらも、キャディにもプレーに入った加害者から目をそらした過失があるなどとして、5割の過失相殺を認め、加害者には1046万円の支払いを命じた。
また、某損保会社が扱った事例では、被害者(会社員)はティショットをシャンクさせ、先に右前方に出てボールを探していた。そこへ、同じ組の加害者が放ったボールが同じくシャンク。ボールは被害者の眼を直撃し、失明させてしまった。
被害者は5000万円の賠償請求を行ったが、被害者にも過失があったとして、結局3割の過失相殺を認め、賠償額は3500万円になった。
言うまでもなく、この種の打球事故に対する賠償額は障害の大きさから、失った利益、今後失うであろう利益などを加算し、算出される。
冒頭の死亡事故では、今後、賠償請求があれば、その額は数千万円以上ということも推察される。その場合、被害者の過失相殺が認められたとしても巨額の賠償になりうる。
ミスショットが笑い話のうちはいい。だが、そこで深刻な事故が起きたとしたら……。やはりゴルファー保険には加入しておいたほうがいいかもしれない。
しかも、万一の場合の額を考えると、「ホールインワン費用」や「用品の損害」に対する補償よりも、賠償責任の補償を大きくした方が安心と思う人は少なくないはずだ。
「当社では、数種類のパターン契約を用意しており、例えば、ゴルファー賠償責任1億円、ゴルファー傷害500万円、ゴルフ用品24万円、ホールインワン・アルバトロス費用50万円で、年間保険料は9590円です。パターン以外の契約も可能です」(共栄火災海上・広報)ということで、ゴルファー賠償だけを大きくする契約もできるのだ。
今加入しているゴルファー保険の内容、それで大丈夫か、今一度再考してみてもいいかもしれない。
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