預託金債権がゴルフ場施設で保全されるという画期的な制度をもって、12年前にオープンした秋津原GCで、会社側が申し立てた民事再生に、会員が会社更生手続きで対抗する事態が起きている。
秋津原GC(奈良県)のオープンは平成不況真っ只中の平成7年9月。
オープン前年の平成6年に、倒産しても安全な「新株主制」の会員権で一次募集が開始された。
具体的には、会員権は経営会社の青垣観光が発行し、青垣観光とは別に、青垣観光が100パーセント出資で設立した秋津保証なる会社が預託金債務を保証する、というもの。
ゴルフ場施設は秋津保証の名義とし、なおかつ秋津保証の株式を入会者に譲渡していく。
予定通り会員権の募集が完了すれば、秋津保証の株主は青垣観光が5割、会員が5割となるはずだった。
つまり、預託金債務を保証してくれる会社にはゴルフ場という資産の裏付けがあり、なおかつその会社の議決権の半分を会員が握れる。
経営会社が議決権の過半数を握らないので、経営会社の暴走に歯止めをかけられる。
これについては、当時ゴルフ専門誌のみならず、日経をはじめとする全国紙や一般の週刊誌でも、会員を手厚く保護した画期的な会員権として、極めて好意的に報じられた。
だが、会員権の募集時期としては最悪の時期だったためか、1800万円だった平成6年の1次募集の後、平成11年にも950万円で2次募集をかけたものの、思うように募集は進まず、現在も会員数は355人にとどまっている。
このため当初の想定とは異なる展開になっていく。当GCの建設には180億円の資金が投じられているが、集まった預託金は63億円。
予定では、建設資金を融資した南都銀行の抵当権は預託金で完済して抹消するはずだったが、借金は113億円も残ってしまった。
当然今も南都銀行の抵当権は抹消されていない。抵当権がついたままの施設の所有権では意味がない。
しかも会員権の販売が進まなかったために、秋津保証の株式の譲渡も進まなかった。
結果、5対5になるはずだった持ち株割合は、青垣観光83パーセントに対し、会員17パーセントという状況にある。
この状況下で会社側が民事再生手続きの開始を申し立てたのが今年1月。
その後会社側がスポンサー候補の選定に入り、地元の大企業である近鉄、秋津原のコース管理を手がけているグリーンシステム、そしてイオン化粧品(スーパーのジャスコとは無関係)のグループ会社・イオン製薬の3社に絞り込む。
最終的に会社側がスポンサー候補に選んだのは近鉄。
だが、これに一部会員が反発し、『秋津原ゴルフクラブを救う会』(以下、救う会)が発足する。
3社の中で、近鉄の提示価格がニ番だった上に、他の2社は株主会員制維持型だったのに近鉄だけが違ったからだ。
「新株主制度を維持してくれるスポンサーであれば、近鉄でも不満はなかったが、維持してもらえないというので、一番提示価格が高く、なおかつ新株主制も維持してくれるというイオン製薬を推したいと考えた」(救う会の松田琢志代表世話人)
スポンサー選定における透明性にも疑問を持っているため、救う会はメンバー18名で10月1日付で青垣観光の、そして10月10日付で秋津保証の会社更生手続きの開始を申し立てている。
秋津保証のゴルフ場施設の所有権も青垣観光に戻されているが、この手続きについても救う会では不満を募らせている。
さて、民事再生手続きのほうは、再生計画案の提出期限が11月末に迫る中、裁判所はどう判断するのか。注目しよう。
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