本誌3月25日号でもお伝えしたとおり、最近はR&Aがスピンの規制を検討しなければならないほど強烈なスピンのかかるウェッジが増えてきた。しかし、プロの世界では逆行する現象が起きている。
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プロ好みはスピン量の“安定”(写真はMTIウェッジ)
ミズノMP600で優勝を勝ちとった
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ボールが手前に戻るほどの強烈なバックスピンにアマチュアは憧れを抱く。そうしたゴルファー向けに、多くのメーカーが彫刻の角溝やフェース面のミルド加工でスピン性能を高めたウェッジを提供している。しかし、憧れの対象であるはずのプロがいま求めているのは、スピンが“かかりすぎないウェッジ”だというから面白い。
もちろん、それなりの理由はある。
「ピンに寄せるというウェッジ本来の目的を考えれば、ボールが戻るほどスピンをかけるよりも、グリーンに落ちてから適度に転がってくれたほうがやさしいです。たとえば受けているグリーンを狙うのに強烈なバックスピンがかかってしまったら落とす場所がありません」と教えてくれたのは、現在男子ツアーで使用率1、2を争う『MTIウェッジ』開発者の宮城裕治氏だ。
確かに、ほとんどのプロがスピン性能を求めた時期もあったが、日本人選手が米ツアーにひんぱんに出かけ、日本のツアーでもラフがより長くなり、ピンが初日から端に切られるなどコースセッティングが厳しくなり、スピンだけで止めることが難しくなってきた3、4年前からウェッジに対するプロの考えが除々に変わってきていると同氏は続ける。
「どんなにスピンをかけやすく作っても性能には限界があります。スピンを期待したショットでもスピンがかからずにグリーンをこぼれたら大怪我になってしまいます。しかし、手前から転がす攻め方ならチップインの可能性もある。もともとタフなセッティングの米ツアーには、そう考える選手が多くいました」
絶対的なスピン量の追求よりも、ソール形状を各選手の打ち方に合わせて削ることでインパクトロフトを一定にするなど、スピン量の安定を最優先に作られた『MTIウェッジ』の男子ツアーでの使用者は、2年間で2倍に増えたという。
また、『ボーケイ・スピンミルド』は、フェース面をフラットにする機械加工によってスピン性能を高めたモデルで、とくに下ろし立てのときは強烈なスピン性能を発揮する。
しかし、谷口徹をはじめ、愛用する選手が新品の『スピンミルド』をそのまま試合で使うことはまずない。たいていは2、3ヵ月練習で使用してから実践投入されるが、これもスピンがかかりすぎた場合と、かからなかった場合の誤差を嫌い、より安定感を求めてのことだ。
ブリヂストンのニュー『Xウェッジ』は戻りすぎを抑える設計となっている。フェースのミーリングを斜めにすることで、フルショット時のスピン発生量を抑えると同時に、フェースを開いたコントロールショットでは十分なスピンがかかるように工夫されているのだ。
バックスピンでボールがグリーンをこぼれたら、アマチュアならば自慢話になる。しかし、プロにとってはその1打は死活問題にもつながりかねない。
コントロールが難しいクラブをアマチュアが使い、プロがやさしいクラブを選ぶといういわば逆転現象がウェッジの世界では起きている。
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