「もう一度何とかゴルフがしたい」。脳血管疾患の人たちのそんな声を聞いて、リハビリにゴルフの練習を取り入れた動きが進行している。この提案をしたのが東京・世田谷のリハビリテーションクリニック院長の長谷川幹氏。その提案を受け、脳血管疾患の人たちが「桜会ゴルフ同好会」を結成、助け合いながらリハビリに励み効果をあげている。
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車椅子から、今では立てるようになった石黒さん
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今春からメタボリック症候群対策に国を挙げて取り組み始めたが、この症候群が引き起こしやすいものに脳血管疾患がある。
厚生労働省の調査によると、日本人の死亡原因の1位はガンによるものだが、脳血管疾患は3位。一命を取り止めても、半身マヒになるケースが多い。
ある日突然、体が利かなくなれば、ショックを受けウツになる人たちは多い。とくに脳卒中で倒れると4割から7割の人がウツ病にかかるという統計もある。
もちろん体を動かさなければ、体の機能は衰えるばかり、必然的にリハビリに取り組まなければならない。
ゴルファー人口1000万人ともいわれ、脳血管疾患で倒れるゴルファーは少なくはない。それだけに倒れた後もゴルフをしたいと思う人が多いのも当然だ。
長谷川氏は強調する。「リハビリには意欲があるかどうかが大きい。主体性を持つためには、趣味や好きなことで取り組むと心理的に自信につながり、効果が期待できる」
同会結成時からのメンバー石黒登志子さんは脳出血で倒れ、左半身がマヒして車椅子生活を余儀なくされているが、当初は車椅子に乗りながらクラブを握っていたが、今は立てるようになったという。
「左半身が不自由なのでバランスを取るのが大変だが、リハビリ効果は絶大。楽しみながらやっています。この会に加わり初めてゴルフをする人もいます」と話す。
日本女子プロゴルフ協会のティーチングプロ・藤本裕子氏は、こうした取り組みに共感し、練習アドバイザーとして参加しており、次のように語る。
「普通の人たちと同じようなスウィングができるよう指導しています。皆さん意欲的で、段々と上達していき、車椅子の人が歩けるようになったり、進歩は目を見張るものがある」
東京慈恵会医大のリハビリテーション医学講座の安保雅博教授は次のように語る。
「マヒがよくなるのは精神的要因が大きいので、その人にあったリハビリを組む必要がある。病院を訪れる人たちに『ゴルフをしたい』と相談されることが非常に多い。
ゴルフをしていた人には、再びゴルフができるようになるという目標は十分効果的だ。ただ気を付けなければいけないことは、再発の恐れもあるのでカーッとならずに楽しむゴルフをすることだ」
同教授は自身もゴルフをするだけに、練習のための装具の相談にも乗っているという。
脳血管疾患の場合、身体的に前に倒れそうで怖いので重心移動がどうしても苦手になる。ゴルフの練習はこの点でも有効だ。
前出の長谷川氏は、「ゴルフができるようになると、自信につながり、心理的にもいい影響が予想される」と言う。
体がマヒしたからとあきらめないで、専門医や主治医と相談して再びクラブを握ってほしいものだ。
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