いまやチタンおよびステンレスヘッドの90パーセント以上の生産を担うなど、ゴルフ用品業界の中国に対する依存度は急激に高まってきた。しかし、クラブやボールメーカーは、ここにきて“世界の工場”が機能しなくなるという事態に直面している。
現地の事情に詳しいチームヨシムラの吉村忠義氏によれば、「中国のクラブ製造メーカーでは、地震の影響はないが、別の要因で一ヵ月程度の納期の遅れが常態化している」という。
その最大の要因は人出不足。これまで中国の雇用市場は、完全な買い手市場で労働者の権利はなおざりにされていた。
しかし、北京オリンピック景気による人、物の移動、物価高などを背景に低い賃金や、劣悪な労働条件などに対して高まる労働者の不満を抑えるため、中国政府は今年1月、ほぼ終身雇用を想定した労働契約法を施行した。
これに対して多くの工場は、法令施行直前の昨年末に一旦従業員を解雇した上で再雇用するという自衛策をとった。
「解雇前の従業員が1000人とすれば再雇用は700~800人程度に抑え、人件費の上昇を抑えること。そのぶん、生産能力がダウンしました」(吉村氏)
そして人手不足のもう一つの要因が若者の工場離れ。「キツイ、汚い、危険」の3K職場を避け、IT産業やサービス業などに流れているようなのだ。
これに追い打ちをかけているのが深刻な電力不足だ。
「工場が集中する広東省では、24時間単位の停電が1週間に3日もある。以前ならば深夜操業や休日出勤で帳尻を合わせることができたのが、労働契約法によって、それもできなくなりました。下請けなどどこか1カ所で遅れが発生すれば、生産はストップしてしまいます」(吉村氏)と現地の工場はダブル、トリプルのパンチを受けている。
金属やカーボンなど原材料費の高騰も影を落とし始めている。「調達費が上昇した分を転嫁できないため、人件費を上げられないんです」(吉村氏)
しかし、いずれ原材料費と人件費上昇分は最終製品価格に転嫁せざるを得ないだろう。まだ、各メーカーともいまのところ欠品など大きな影響は出ていないが、今後は生産枠の奪い合いや、生産・販売計画の見直しを迫られることもありそうだ。
現に「生産枠を確保するために、今から来年の生産計画を出して欲しいといわれた」(イオンスポーツ・梅本伸昌氏)メーカーもあり、資金的に余裕のない中小零細メーカーにとっては製品が作れないという事態も考えられなくはない。
その一方で、あてにしていた安い労働力が使えなくなれば中国にいる意味がないとして、撤退する動きも出ている。
「すでに広東省では大小2万もの工場が閉鎖、国外に移転した工場も多い。クラブ元請け最大手のネルソンは台湾の工場を一部再稼働しています」(吉村氏)
また、キャロウェイゴルフでも、インドにボール工場を建設し、米国、中国、インドの3拠点体制でリスク分散を図っている。最近は、クラブメーカーも原産国表示に神経を尖らせているが、近い将来、グリップ、シャフトからヘッドの各パーツまで違う国で作られた多国籍クラブが登場するかもしれない。
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