プロとクラフトマンや開発者の間に立って、その橋渡しを行うのがメーカーのプロ担当、ツアーレップの役目だ。トーナメントに同行しながら、プロの意見を聞いたり、開発者との意見調整を担う役割を負っている。そんな彼らに一般には知られていないプロのクラブセッティングの“秘密”を聞いてみた。
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石川遼が感性で選んだクラブがナノブイ450D
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ヤマハの二枚看板といえば藤田寛之と谷口徹だが、谷口がヤマハとの契約に至ったきっかけは藤田のすすめがあったから。しかし、同じクラブを選んでいても、セッティングの好みはまったく違う。
「藤田プロは見た目がストレートなクラブが好み。谷口プロは見た目も実際もつかまるクラブが好みです。『インプレスX4.6Vr.p.m.』のテストでも、藤田プロは重心距離が長いもの、谷口プロは重心距離が短くて低重心のものが一番いい結果が出ました」(ヤマハ・今野満雄さん)
アイアンの顔も正反対。トウの立ったスコッチブレードタイプの『インプレスX Vフォージドツアーモデル』は、藤田の好みに近づけた顔。一方、谷口のために作られた『インプレスX Vフォージド』は、ラウンド形状でグースも大きめ。フェース高さを抑えた低重心設計だ。
「藤田プロのアイアンはいかにもプロや上級者が好みそうな純日本風。これに対して谷口プロのアイアンはアメリカンテイストといったらいいのでしょうか。とくに海外試合の経験が豊富な谷口プロは、タフなコースセッティングも想定して、球の上がりやすいクラブを求めているようです」(今野さん)
08年の賞金女王を争った古閑美保と横峯さくらも、同じ『ゼクシオ』を使いながらセッティングは対照的だ。
「古閑プロの4本ウッドに対し、横峯プロは4本ウェッジ。これはそれぞれの得意クラブを生かしたセッティングです。古閑プロは、長いパー4のセカンドやパー3で、高い球を打って止められるように7Wや9Wを入れています。横峯プロは、ドライバーの飛距離が出るので、必然的にショートゲームを重視したセッティングになります。ウェッジを4本にしたぶん、長い番手で距離が開きますが、距離が合わないときは割り切って刻みます」(SRIスポーツ・宮本憲一さん)
フックフェースはとくにハードヒッターには敬遠されるというのが通説だが、実はフックフェースを好むプロは多い。08年ドライビングディスタンス7位の石川遼もその一人だ。
「最初に使っていた『ナノブイスペック450D』はまったくの市販モデルです。とくにドローが打ちやすい設計で、フェースが左を向いているし、ライ角もそれ以前使っていたドライバーよりかなりアップライトです」(ヨネックス・宇野一寿さん)
意外に思えるが理由はこうだ。
「たとえハードヒッターでも、ヘッドが遅れてくるイメージのあるクラブだと、自分で手首を使ってヘッドを返そうとするので、かえってチーピンなどのミスが出やすくなります」(宇野さん)
ちなみに、当時の長さは45.25インチと男子プロの中では長尺の部類だったが、それも「たまたま市販モデルがその長さだったから」(宇野さん)
欧米のトッププロが自分のクラブのロフトすら知らないという話はよくあるが、石川遼にもそんな大器の片鱗を感じる。こだわりのプロとこだわりの少ないプロ、09年の開幕戦でそれぞれのクラブがどう進化しているか楽しみだ。
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