まるで青春映画のストーリーである。ジュニアで実績のない選手ばかりが競技参加人数ギリギリの5人在籍する、無名の大学ゴルフ部が先日、初めて出場した全国大会、第32回全国女子大学ゴルフ対抗戦で優勝。この大番狂わせを演じたのが西宮の大手前大学、そしてこのゴルフ部を指導する監督こそ、本誌連載「ゴルフ野性塾」の坂田信弘塾長だった。
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やればできる! 女子日本一に輝いた大手前大女子チーム
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大手前大学のゴルフ部は地元・関西でもまったくの無名校だった。それもそのはず。部とは名ばかりで、2年前は女子がたった1人(1年、坂田塾出身)在籍するだけ。
そのゴルフ部の監督に昨年、坂田塾長が就任した。同時に坂田塾出身の女子がもう1人入部。さらに今春、坂田塾の女子が3人加わり計5人。男子も5人入り、男女とも団体戦に出場できる部になった。
そこで3月、坂田塾がタイのバンプラで実施する合宿に参加させ9日間の集中練習を行った。
「坂田塾のエリート選手は皆他の大学へ進むから、大手前に来たのは落ちこぼれの塾生ばかり。だから、合宿では細かな技術ではなく、プロのコーチが中心になって実践的なチームワークを学生たちに自主的に考えさせた。結果、合宿は心をつなぐ場になった。コーチの指導が良かったな」(坂田塾長)
成果はさっそく現れた。4月の関西学生春季学校対抗戦で、男女とも下部リーグから1部に昇格。さらに女子はその1部でも2位となり、今回の初出場での全国制覇となったのだ。
これには、さすがの坂田塾長も驚きを隠さない。
「部としての活動は実質、今年が初年度。女子は3年、男子は6年での“日本一”を計画していたから、私自身驚きだ」
坂田塾長は「ゴルフ野性塾」の中でも、同部員たちを「カボチャ軍団」と呼び、「ヘボ」ゆえの心構えや練習方法を説く姿をつづっていた。しかし、そこからは、厳しくも愛情豊かな指導ぶりがあふれ出ていた。
「坂田さんは学生たちに、常々『ゴルフだけしたい奴は来るな』と言っています。学生ゴルフにしかできないチームワークを学び、勉強もしっかりやれと指導しています」と同校学生課長の安井敏裕氏は証言する。
学生ゴルフでは、実力で劣る大学が番狂わせを演じる例は珍しくない。関東学生ゴルフ連盟元顧問の福島靖氏は「番狂わせをした学校の多くは指導者がチームワークを徹底指導しているのですが、おそらく今回もそうだったのでしょう」と語る。
学生ゴルフならではの指導に選手たちにも変化が見られた。「以前はすぐにもプロになりたいといっていた選手たちが、卒業までゴルフ部で活動すると声を弾ませています」と安井氏。
しかし、今回の全国制覇で新たな課題が……。全日本クラスを含め、既に多数のジュニアが来春の入部を希望しているという。だが、これまでの指導ができるのは25人が限度。
さらにその大所帯でいかにチームワークを保とうというのか。坂田塾長の挑戦はまだまだ続く。
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