日本中のゴルフファンの目が注がれていた日本オープンと同週に開催されていた栃木県オープン(10月14日~15日、鹿沼72CC)で、46歳のベテラン・崎山武志が12年ぶりの美酒を味わっていた。崎山といえば、3年前の06年1月、殺人未遂の容疑をかけられた。事件を乗り越えて再生、復活した崎山を追った。
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ツアーで活躍することが、これまで支えてくれた人たちへの恩返しになると崎山
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栃木県オープンは、同県ゴルフ場協議会、県プロゴルフ会、開催コースの鹿沼72CCが主催する大会で、今年で13回目を数える。崎山武志はその初代優勝者でもあり、過去3年連続で2位という成績も残しており、日本オープンと同週開催で有力選手を欠いていたとはいえ、県内屈指の実力プロと言ってもいいだろう。
その実力者が12年ぶりに同県オープンのタイトルを獲得したのだが、この優勝は、崎山にとってある忌まわしい過去の出来事を払拭する感慨深いものでもあった。
崎山が「家族のことを思うと、もうその件には触れて欲しくない」という出来事の詳細は、あえて蒸し返さないが、崎山自身が自首したことによって、警察沙汰になったものの事件性なしと判断され不起訴になったことだけは、触れておかなくてはならないだろう。
その時に崎山の身元引受人になったプロゴルファー青山薫はこう語る。
「崎山を古くから知る人間として、絶対にそんなことができるヤツじゃないと信じたから身元を引き受けたのです」
その06年、不起訴とはいえ、ツアープロの不祥事ということで、日本ゴルフツアー機構(JGTO)は同機構が関連する試合での崎山の出場停止1年を理事会で決め、日本プロゴルフ協会も同様の処分を下した。
その処分に先立ち同県のプロゴルファーたちが中心になって立ち上がり、崎山の「処分軽減」を求める署名活動を始めた。その活動の甲斐があったのかJGTOは次年度の出場資格順位を決めるQTへの参加だけは崎山に認めている。
そうした署名活動が行われたのも「地元のプロたちは私と同じように崎山の人柄を皆が知っていたから」と青山は言う。
そんな崎山を支えたのも、やはり旧知の人々だった。
「以前からお付き合いがあったブランドジーンズで有名なエヴィスが社員として雇ってくれました。私はもうプロゴルファーはできないものだと思い、サラリーマンに徹するつもりでいました」
という崎山だが、会社はQT受験などプロ活動にも理解を示し、支援してくれたと言う。
複雑な事情の家庭に生まれ、中学卒業まで養護施設で育った崎山は、23歳で一念発起しプロゴルファーを目指し、29歳でプロテストに合格した苦労人。以後、予選会(現QT)からツアー出場を目指し、シードに手が届きそうになったこともたびだひあったが、その間、生活が苦しいときは日給4000円の宅配便のバイトなどで凌いだこともある。
「研修生時代にお世話になったコースでの12年ぶりの優勝ですから、気持ちが引き締まる思いです」という崎山。
青山は、「この優勝で、完全に禊が済んだと言ってもいいでしょう。これからの崎山に期待しています」と話す。現在、崎山はサードQTの真っ最中。これを通過すれば、いよいよファイナルQT。レギュラーツアーへの出場資格も生まれる。再チャレンジに注目したい。
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