石川遼がツアー9冠に輝き華々しく表彰を受けていたとき、茨城のセントラルGCでは来季の出場権を賭けたファイナルクオリファイングトーナメント(QT)が開催され、悲喜こもごものドラマが生まれていた。
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(左)
田中の指導にあたるのは「シード選手の指導にあたるのは初めて」という小柄な飛ばし屋の吉田コーチだ/(右)QTが終わって数時間後にプロ転向の書面にサインした薗田
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田中秀道復活の裏に吉田プロあり
約40位までが前半戦の出場権を獲得するファイナルQT。トップ通過はオーストラリアの27歳カート・バーンズ。だが何と言っても目を惹いたのが出場順位9位に入った田中秀道だ。
38歳になったアラフォー田中は米ツアーでシード選手として活躍したが、度重なる故障で撤退。国内では98年の日本オープン優勝による10年シードも切れ、09年は特別保障制度が適用され20試合に出場するもランク77位で賞金シードの獲得はならず。背水の陣で挑んだQTの過酷な戦いを精神力で乗り越えると「2010年は絶対に勝つ!」と高らかに復活を宣言した。
田中の復調を蔭で支えたのは、今年2月からコーチ役を務める週刊ゴルフダイジェスト・飛ばしのレッスンでおなじみの吉田一誉プロだ。
「足をクローズ、肩をオープンにして左に引っ張ってフックを打っていた」のが故障につながった、という観点から「スクェアに構えてもフックを打てる」という意識改革を促し、素直なスウィングでショットの精度を向上させ、「あとはパットだけ」と言えるところまで戻した。
「僕の役割は秀道さんを元の感覚に戻すこと。足す作業はありません」
と吉田プロは言うが、元々備わった潜在能力を引き出すことで、来季は再び“強い秀道”が見られるかもしれない。
ベテランでは他に尾崎健夫が13位と健闘したが、涙をのんだのがツアー9勝の佐藤信人(39歳)や10年連続で賞金シードを守って来た小山内護(39歳)らだった。
王様・薗田は通学しながらツアー参戦
入れ替わるように新時代の騎手も現れた。石川遼の杉並高校の先輩で現在、明大2年生の薗田峻輔だ。石川が「僕が王子なら先輩は“王様”」と言い、有名になった薗田が22位に入り、その場でプロ転向を表明した。
「最終日を4位で迎えたのに結局22位。詰めが甘いです」
と反省しきりだが、「より高い環境で自分を磨ける」とツアー出場のチャンスを素直に喜んだ。石川からは電話で「おめでとうございます」と言われたが「おめでとうじゃないよ」と言い返したのだとか。
「だって彼のほうが凄いことをやってるから」と、すでにプロの舞台で活躍する後輩を讃えつつ、追いつく日を夢見てスタートラインに立つ。
それにしてもQTを受けた選手がそろって口にするのが「もう2度とQTには戻りたくない」というセリフ。プロにとって翌年稼げるか棒に振るかの分かれ道ゆえ、その雰囲気たるや殺伐として「シビアそのもの」(薗田)。
「ぜってー、来年QT行かねーし」とブログに綴った田中秀道の言葉が戦いの厳しさを物語っていた。
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