ダスティン・ジョンソンが悲願のメジャー初優勝を遂げ、多くのファンの祝福ムードで幕を閉じた全米オープンだったが、5番ホールでのプレーをめぐるUSGAの裁定については、やや後味の悪さが残った。
まず、事実関係を整理すると、5番ホールで約1メートルのパットに臨んだジョンソンがアドレスに入ろうとしたところ、ボールがわずかに動いた。すぐにオフィシャルに裁定を仰ぐとその場では「無罰」と判断された。ところが、12番ホールのティグラウンドで、USGAのオフィシャルがジョンソンに対し、改めて「1打罰の可能性」を示唆。結局、プレー終了後に、ジョンソン本人も含めた協議の上、5番ホールのプレーに「1打罰」が下されたのだ。
論点は2つあり、1つめはUSGAの裁定(1打罰)が、適正だったかということだ。この点については、USGAは何ら間違ってはいないと胸を張る。まず、1打罰の根拠だが、これはゴルフ規則18︲2(止まっている球が動かされた場合)に、プレーヤーやパートナー、またはそのキャディや携帯品により、インプレーの球が動いた場合には、1打の罰を受けることが明記されている。問題は、今回のジョンソンのケースのように、球が動いた原因がプレーヤーにあるかどうかが「明確ではない」場合だ。ゴルフ規則裁定集18︲2/0・5には、「止まっているプレーヤーの球が動いた場合、(中略)すべての関連する情報が考慮されなければならず、証拠の重さが評価されなければならない」とある。また、その際に考慮すべき事柄として、「その球の近くで行われたあらゆる行動の性質(例えば、ルースインペディメントを動かした、練習スイングをした、クラブを地面につけた、スタンスをとったなど)・そうした行動とその球が動くまでの間の経過時間」などが列記されている。そして、ここが最も重要なのだが、そうした事柄を総合的に判断した結果、「どちらかといえばおそらくそのプレーヤーがその球を動かす原因となったと思われることを証拠の重さが示している場合、その結論に疑念があったとしても、そのプレーヤーは規則18︲2に基づき1打の罰を受け、その球をリプレースしなければならない」となっている点だ。
USGAが、全米オープン終了後に出した公式発表によると、「(ジョンソンが)パターをボールのすぐそばの地面につけ、そのほぼ直後にボールが動いていることから」、"どちらかといえば"ジョンソンの行動がボールを動かす原因となったとして、1打罰を課したとしている。ちなみに以前は、ゴルフ規則18︲2bの項目があり、その中で、アドレスした後で球が動いた場合、プレーヤーがその球を動かしたものとみなされる、いわゆる「みなし規定」があったが、2016年規則から、その項目は削除された。したがって、ジョンソンの1打罰に関して、アドレスする前か、後かという点はまったく関係がない。さらにリプレースしなかった点についても、その場では無罰の裁定を受けているので、誤所からのプレーの罰は受けない。
2つ目の論点は、1打罰の裁定が、「ラウンド終了後」になったことについてだ。
この点についてUSGAは、「ビデオの映像に基づく裁定の場合、プレーヤー本人も協議に参加できるように、ラウンド終了後、アテストの前に行われることは一般的なルーリングの手順」としている。だとしても、ペナルティが課されるのかどうか、不安な気持ちのまま7ホールをプレーしなければならなかったジョンソン本人への負担ははかり知れない。ルール研究家の小山混氏も「優勝争いの当事者の裁定がホールアウト後になるというのは、その影響の大きさを考えれば、タイミングとして問題がある」と語る。その点についてUSGAは、「不必要なあいまいさを、ダスティンとその他のプレーヤー、ギャラリー、それに視聴者に与えた」と、一定の非を認め、USGAの専務理事でCEOでもあるマイク・デービス氏は、テレビのインタビューに応じて、「ルールを遵守するという点では役割を果たせたが、チャンピオンシップ自体の運営の面では、我々は明らかに大きなボギーを叩いた。できれば"マリガン"(やり直しの機会)がほしい」と述べた。
1歩間違えば、興ざめな結果となったかもしれない試合。救ったのは、自分のプレーに徹したジョンソンであることは、間違いない。
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